むかし、「龍ヶ岳」が、「寿ヶ岳」と呼ばれていた頃、豊かな不知火海では絶好の漁日和がつづいていました。ところがある日、空は明るく晴れているというのに、突然海が大きくうねり、魚の群が消えさり、漁ができなくなってしまいました。村人たちが浜へ集まっていると海中から、なんと、大きな龍が現れました。潜ってはまた飛び出し、大あばれをしています。人々は頭を寄せ合い相談しましたが、「困った、困った」というばかりです。  やがて、村のひとりの若者が「龍は神様のお使いだ、あんなにあばれるのにはなにか理由があるにちがいない」と言うと、人々の反対を押し切って荒れる海に舟を出しました。舵棒をしっかり握りしめ、やっとの思いで龍に近づき、よく見てみると、龍の腹には大きな傷があるではありませんか。龍は痛みに耐えかねて暴れていたのです。若者は戻り人々と相談しました。「寿ヶ岳に生えている薬草なら役に立つに違いない」という長老の言葉により、人々は手分けをして、寿ヶ岳のすみずみまで薬草を探しました。人々は協力しあい、何度も何度も山と浜を往復して集めた薬草を運び、浜には薬草が積み上げられました。
 しかし、この薬草を誰がどうやって龍に薬を塗るのかが問題です。人々はまた考え込んでしまいました。海は大荒れです。人々が黙りこんでいると、例の若者がすっと立ち上がり、黙って舟に薬草を積んで、荒れた海へ漕ぎ出します。それを見た人々も勇気を奮い起こして次々とそれに習いました。龍のそばまで来た若者は、「龍よ、薬を塗るからしばらく我慢してじっとしていておくれ」と念じると、龍はおとなしくなりました。人々は龍の傷口に薬草の汁を塗りはじめました。人々が丁寧に薬草の汁を塗っていくと、不思議なことに、傷がみるみるうちになくなりました。  元気になった龍は一度海中に潜ったかと思うと、渦を巻くように空中へ高く舞い上がり、そして、お礼を言うように何度も何度も寿ヶ岳の上を旋回し、やがて天に昇っていきました。人々は肩をたたき合い喜びました。  人々はお互いに協力し、助け合うことによって危機から抜け出せたことを、いつまでも忘れないようにと「寿ヶ岳」を「龍ヶ岳」と呼ぶようになったということです。




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